金城は小さく舌打ちをすると、
    「ヤス、タケ! お前ら二人で追え。報告抜かるなよ」
    「わ、解りました!」
     比較的柔らかい顔立ちの若い二人を指名すると、あとは引き上げるように指示を出した。そんな風に見えて、どちらも格闘技経験者だ。
     心許ない、とは思ったが、大人数で動くよりはまだ目立ちにくいだろう。
     もしかしたら、退いたと油断した少年が逆にひょっこり顔を出すかもしれない。そうなればこちらの勝ちだ。
     そんな男の思惑まで見越していた訳ではなかったが、閃光はいくつか建物を超えた後、再び地上に降りて駐車場の片隅に身を潜ませていた。こんな時間にも関わらず停まっている車なら、朝まで動かされることはあるまい。都会の死角でようやく、安心して一息つけそうだった。
     ふと、脇腹辺りに違和感を覚えて触れてみると、掌がぬるりと濡れる。血だ。
    ーーああ、やべえ……さっきの当たっちまってたのか……
     身体を動かしている最中は、アドレナリンのせいで全く痛みを感じなかった。傷口に指を差し入れて探ってみれば、運よく弾丸は抜けているようだ。
     それにしてもこの出血が続くのは、さすがの閃光もまずい。
     傷の具合を自覚した途端、かくんと膝から力が抜けた。あ、と思う間もなく、アスファルトに倒れ込む。一度止まってしまった身体に、容赦なく疲労とダメージはのしかかり、まるでその場に縫い止められてしまったかのように重さを増した。鉛の重石をつけられたような四肢は、最早指一本すら自分の意思で自由に動かせる気がしない。
     視界が歪み、そのまま意識が泥のように溶け出してしまいそうだ。
    ーー動け……立て……!! まだ油断するな!
     そう思う反面、もういいかと全てを投げ捨てたい想いも沸き起こる。このまま自分が路傍の隅で野垂れ死んだところで、誰が困る訳でもない。
     ざあざあと降り注ぐ雨が眠気を連れて来る。
     水溜まりに流れ広がる鮮血は、止まることを知らないように溢れていた。
    ーーまほろ……
     もう疲れた。
     逃げて逃げて、貴女のいない世界をひたすら歩き続けるのは。たった独りで、宛てもないまま息をするのは。
     次は一体、どこへ行けばいいと言うのだ。
     どこでなら、誰を傷つけることもなく傷つけられることもなく、生きて行けると言うのだ。
     目蓋が重い。
    『閃光、生きて……』
     遠くで誰かの足音を聞いたような気がしたが、閃光の意識は深い闇に飲まれた。


    * * *


    →続く