「…………っ!?」
慌てて起き上がり、見渡した部屋に覚えはない。オフホワイトの壁紙に薄いグリーンのカーテン、天井の蛍光灯は消されている。清潔によく手入れされてはいるが、モーテルやビジネスホテルの類いではない。個人の邸宅だ。普段使われている訳ではないのか、生活感は希薄である。
連れ戻されたにしては、あまりにも空気が違った。何より、拘束されていない。それどころか撃たれた数ヶ所を含めて、丁寧な治療が施されていた。おかげでかどうかは定かでないが、この規格外の身体は既に傷が塞がりかけている。別の人間に拾われたにしても、こんな事態は初めてだ。
ーー何だ……一体、どうなってる?
他に何かされた様子はない。
手足も自由に動くし、視界は利く。五感は確かだ。いつも奪われないように注意を払っているペンダントロケットも触れられた様子はなかったし、両手を覆う黒い手袋も外されてはいない。さすがに着ていた服は処分せざるを得なかったのか、それでも真新しい着替えは恐らく自分の年頃が着るのであろう不自由のないものだった。
己の身体の状態を把握してホッと安堵してから、次に閃光は室内に視線を走らせる。ベッドの他には作りつけのデスクセットが一つ、その上には小さな置時計、クローゼットのみのシンプルな造りだ。どちらも中は空だった。
せめて武器になりそうなものがあれば、と期待した閃光は小さく舌打ちを溢した。
ーーさすがにそこは抜かりねえか……まあいいや……
いざとなれば、この身体こそが最強の武器だ。弱って多少衰えても、それは変わらない。
時計が示す時刻が正しいのなら、現在時刻は午前九時を少し回ったところだ。あれから何日経ったのだろう。
壁際に身を寄せて、ゆっくりとカーテンを開け外を眺めると、緑豊かな庭が見えた。名前など知らなかったが、色とりどりの花が咲き乱れていて美しい。
ーー運がいいな、一階だ……このままここから出るか?
情報が皆無に等しい現状は心許なかったが、こうしてここに留まっている意味はない。それにしたところで、何も持たずに行くのは愚かな行為だ。せめて水と食料くらいは手に入れたい。
このところまともな食事にありつけていない身体は、正直だった。
部屋の外に出ようとして、足を止める。
誰かがこの部屋に向かって来る足音だ。ゆったりとした歩調、床の軋み具合から推し測ると、それほど体格がいい相手ではなさそうだ。
ーー何か聞き出せるか……?
音を立てずに扉の死角に潜む。息を殺して気配を消す。聞こえて来る小さな鼻唄。相手は完全に油断しているようだ。
ぺろりと舌舐めずりで口唇を湿らせ、タイミングを図る。
→続く
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