ぴしりと皺一つないバトラー服の背中が遠ざかるのを確認し、閃光はほんの一瞬だけ離していた視線を再び誠十郎に戻した。にこにこと屈託のない笑みを浮かべた目の前の男が、一体どう言うつもりであるのか全く解らない。
今まで相対したことのないタイプの人間だった。
「わしの言葉が解らん訳ではなさそうだな? 何、そう警戒せんでもいい。クリフの飯は美味いぞ。まともに食っておらんじゃろう? 出て行くならその後からでも遅くはないよ」
「…………」
近づいて来る食べ物の匂いに、腹の虫は正直に声を上げた。
ーーどのみち今すぐここを出ても、奴らと鉢合わせしないとも限らねえ……ほとぼりが覚めるまでは、ここに身を寄せてた方が賢いか……
疲労が蓄積しているのもまた事実だ。
やがて、手押し台にいろいろな料理が乗せられて運ばれて来た。二人はどちらもどう見ても日本人ではないはずなのに、広げられたメニューは完全なる和食だ。
焼き魚に野菜の煮付け、玉子焼き、お浸し、味噌汁に大根おろし、梅干し、納豆まで揃えられている。炊き立てらしいご飯がお握りにしてあったのは、万が一こちらが箸を使えない可能性を考慮してくれたのに違いなかった。
ほこほこと立ち上る湯気に、思わず唾を飲む。
こんな温かな食事にありつけるのは、一体いつぶりだっただろうか。
「近頃の若者はやれパンケーキだ何だと騒いどるらしいが、お前さん和食好きかぃ?」
ずい、と半ば押しつけるように差し出されたお握りを思わず受け取る。
「…………」
躊躇してそのままじっと皿を見つめる閃光に構わず、誠十郎はさっさと自分の分をよそって、むしゃむしゃと豪快に食べ始めていた。すぐ傍でそんな真似をされては、我慢をしているのも限界がある。
ふんふん、と一応匂いを嗅いで毒が入っていないことを確かめると(勿論閃光の鼻を持ってしても、解らない毒は幾多もあるが)、あぐりと大きな口を開けてお握りを頬張った。途端に口いっぱいにほんのりとした塩味と米の甘味が広がり、さらなる食欲を刺激する。
そこからはもうあまり記憶がない。がつがつと手当たり次第に掻き込んで、充たされるまでひたすらに食べた。
「こんなに賑やかな食事は、久し振りだな。慌てんでいいぞ、いっぱい食べなさい」
そう嬉しそうに、誠十郎が笑ったことだけ覚えていた。
* * *
→続く
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