#twnvday 期待されることに未だに慣れない。俺は特別でも天才でも幸運でもない。あるのは積み重ねた三年間。九回裏二死満塁一打逆転の好機。思い切り踏み込みバットを振り抜く。澄んだ音と共に飛んだ球を吸い込む空の青さにああ、夏だと思った。一瞬の静寂後の歓声もどうでもいいくらいの。


    #twnvday 貴方が来るまでの時間は無限大に続くような気がする。来る、来ない、来る…そんな下らない占いをするくらいにはいつも不安なのよ。早くその角を曲がって姿を見せて。とびきりの笑顔で私の名前を呼んで。バッグの中で携帯が震える。「悪ぃ、寝坊した」……現実なんてこんなもんだ。


    #twnvday 罪を償うために罪を重ね、何かを守るために何かを失う。奪って奪われて、その帳尻が合うのはいつだろうーー全ての罪を雪ぐのは。そんな日はきっと来ない、と嗤ったお前は一体何を思って『∞』の首飾りを俺に託したのだろうか。白から黒へ次第に変化する、この希望のような呪いを。


    #twnvday 無様に死に損なっただけです、と君は言う。けれど彼が生きろと言ったから、君はこうしてここにいるんだろう。もう変われない自分の代わりにまだ変われる君を、この理不尽で残酷な世界に残すため。その優しい呪いを一身に受け足掻いて何度でも立ち上がれ。彼から託された誠と共に。


    #twnvday 最期に逢うなら君がいい、と言ったのを覚えていたのか、気づけば病院の窓辺には在りし日のままの彼女が立っていた。探した?と問えば横に振られる首。変わらないことは成長していない証だ。あの頃から無茶な馬鹿ばかりしている。「嘘、笑い方優しくなった」失う痛みを知っただけ、


    #twnvday 君の味噌汁は美味いなと安堵するように旦那様が笑う瞬間が一日の内で最も幸福な時間。始めは包丁もまともに握れなかった私が毎日練習して貴方好みに作るものですもの。最初噴き出されたのも初めて褒められた日も忘れませんわ。今日は大根と油揚げを入れました。隠し味は秘密です。


    #twnovel 全て満たされていることは退屈だ。何もかも思い通りの世界なんて反吐が出る。望めば全てが手に入り、いやそもそも俺が持っていないもの等ない。陛下、ご機嫌麗しゅう。顔を見ればどいつもこいつも。それなのにただ一人だけ、お前だけが、俺に褪めた目を向ける。面白いじゃないか。


    #twnovel お囃子に誘われ行くと見覚えのない神社に出た。疑問に思いながら出店を冷やかし歩く。人混みの熱気と揺れる提灯。「どうして君がここにいるの?」声をかけられ振り向いた先、狐面の少年が立っていた。去年亡くなった幼馴染みだ。「早く帰りな、また道間違う前に。戻れる内に」


    #twnovel 煙は地上に残された者の想いを天に届ける便りだと言う。冷たい墓石を前に線香代わりの煙草を備えた。あの馬鹿の好きだった銘柄。あの世は禁煙じゃないかよ? 得意げに紫煙をふかす顔を思い出して腹が立った。名声よりも栄光よりも大事なものを残しやがって、託された身にもなれ。


    #twnovel いつの間にか蝉の声が秋虫の調べに変わった。窓から入る風が少し涼しく乾いて来た。確実に時は流れて季節は巡りその緩やかな変化を君と味わえる幸せを今噛みしめている。「いい加減重いんだけど」膝枕から押し退けられる僕の頭。照れ隠しで君がくわえたプリンはカボチャ味らしい。


    #twnovel 伝えたい想いはたくさんあったはずなのに知らせたい出来事もたくさんあったはずなのに、いざ書こうとすると溢れ出るはずの言葉はまとまらず霧散して形を成してくれない。念じたことがそのまま文になればいいのに、と願いながら真っ白の紙面と庭に咲いた黄色い花を封筒に入れる。


    #twnovel 16年人間のフリをして生きて来た。その最終判定で私は人類の敵に回る。守る価値のない彼等を滅ぼす。「この化け物め!」いくつも向けられる銃口。その前に立ちはだかった君を死なせたくないと思ったのは幼い頃に交わした約束だけが君を動かしたのではないことを知っているから。


    #twnovel 毎年この時期兄夫婦が連れて来る姪を密かに台風娘と呼んでいる。この年頃の女の子は忙しない。あれ買って、これ食べたい、あの店行きたいetc.けれど振り回されるのが嫌でないのは何故なのか。きっとあと数年後に僕は用済みになるのに。マー君ほど暇じゃないなんて言われてさ。


    #twnovel 出来たぞ。私のコピーロボットだ。命令すれば私の代わりに面倒事を何でもこなしてくれる。私は家を出なくなった。従順で完璧な機械に夢中になった。心配した恋人が押しかけて来た。うるさいから処分しろ。遠くで上がる悲鳴。あ、そう言えばロボットに心を入れるのを忘れていた。


    #twnovel 模範囚の褒美に自由への翼を手に入れた。背中に取り付けられた物へ羽ばたけと念じればちゃんと翼は動く。制限時間は一時間。とは言え空中の俺を捕まえられまい。やったぜ、このまま牢獄からおさらばだ。ラスト一分、看守を振り切り塀を飛び出した俺に翼が「残り十秒で爆発します」


    #twnovel 卵が先か鶏が先か。言い争いの原因はいつだってどうでもいいことが発端だ。不貞腐れて眠ってしまった彼女の背中を盗み見る。君が下に敷いてる上着、今から着てかなきゃなんだけど。赤く腫れた目元に不意に愛しさが込み上げて目覚めのキスを送った。「君の好きなイタリアンでいいよ」


    #twnovel お前を絶対許さない。俺を睨みながら貴方が言う。お前は僕の大事な人を殺した。いつか必ずお前を殺してやる。けれどその約束こそが俺とお前を繋ぐ唯一の絆。解きようのない強い呪い。それはまるで恋のような愛のような。いつまでもどこまでも憎めばいい。その目には俺しか映らない。


    #twnovel 美味しかったわ、また林檎のパイを作って頂戴。そう笑った時のお義母様の顔を私はきっと忘れない。「馬鹿な、ちゃんと毒は入れたはず」慌ててパイをかじるお義母様。数秒もしない内に泡を吹いて倒れる。心配しなくても毒は入ってた。私が効かない体質なだけよ。悪く思わないでね。


    #twnovel 窓の外をごうごうと雨と風とが過ぎ去って行く。今夜は嵐だ。黒い空に稲光が走り、つんざくような音と共に落ちて来る。不意にばたんと扉が開き、この小屋に誰かが飛び込んで来た。「迎えに来たぞ、我が息子」人間界に遊びに来て豊穣のためにと囚われた。ああこれでようやく帰れる。


    #twnovel 「それ美味いの?」絶えず相方がくわえた煙草を指差して問う。奴はどこともなく溶けて消える紫煙の先を見やっていつもと同じ淡々とした表情で答えた。「別に美味いから吸ってる訳でもない」灰の積もった空き缶と生気のない眼差し。あとどのくらい隣で見ることを俺は許されるのか。


    #twnovel ガタンゴトン、ガタンゴトン…電車は今日も哀れな羊を乗せて会社(オリ)と家(オリ)との間を走ります。逃げ出すための牙もない、抗うだけの爪もない、羊は今日も死んだ目で二つの檻を行き来します。ガタンゴトン、ガタンゴトン…所詮この世に囚われた、僕らはみんな監獄の中。