台風一家がやって来た。おかげで日本列島はすわ世界の終わりか人類滅亡かと言った有様だ。中心地で台風の目状態の我が家を除いて。「喜べ、これで学校休みだぞ!遊べるぞ!」「いつも息子がすみませんね」やれやれ転勤族で可哀想だなんて甘言に乗って、迂闊なことをするもんじゃない。 #twnove


    食べたいものを指折り数えて列挙する少女に呆れた眼差しを投げる。「お前は冬眠でもすんのかよ」秋に美味いものが多いのも食欲が増すのも長い冬を越えるための自然の摂理だが、暖を取る術を持つ人間まで当てはめるのは如何なものか。「違うわよ、寒い中遊ぶから栄養がいるんじゃない」 #twnove


    今時箒なんてダサいとルンバに乗り猫より犬派と使い魔の譲渡を拒否した娘が今日結婚する。ただ一つ私から受け継いだ魅了の魔法を駆使して選んだ相手は好みの狼男。今度遊びに行くから林檎パイが食べたいと相変わらず我が儘でけれどその魔法に一番にかかった私はいつまでも甘い親馬鹿。 #twnove


    付き合って五年同棲三年。この先行き不透明な関係に終止符を打ちたい。普通の幸せや有り体な形から外れているからこそ不毛なままでいては駄目だと思った。だから「やっぱお前の味噌汁美味いな」と笑うお前に「今ならそれ残りの一生ずっと飲めるキャンペーン中だけど」と爆弾を投げる。 #twnove


    貴方を愛することが罪だと言うならば私はこんな翼なんて要らない。この想いが汚れていると言うならばこの世に愛なんて存在しない。私は翼を堕として天を去った。まだ血の流れる背中の痕を指でなぞり「お前の白い翼は割と気に入ってたんだがな」と笑う彼の背中には蝙蝠みたいな黒い翼。 #twnove


    「なー、明日の天気は?用事あるから晴れ希望」俺の隣に寝転んだ主が気怠そうに問うて来る。全く仮にも神獣であるこの俺にそんなどうでもいいことを訊ねて来るのはこの男くらいなものだ。でもそれが気に入っている。「大丈夫、晴れだ」が奴は既に夢の中。風邪を引かぬよう尾をかける。 #twnove


    昏々と眠るお前を見やって刃こぼれ一つない愛刀を手にする。百人を殺さねばお前は永遠に目を覚まさないと言う。今更それくらいの数が足されたところで手の汚れを気に病むこともないが、お前はきっと俺を責めるだろう。「俺もすぐに後を追う」そう呟いてお前の胸に切っ先を突き立てる。 #twnove


    いつか必ず迎えに来るわ。そう言って去ったご主人様を待って僕は今日も枯れた大地に種を蒔く。そんないつかなど多分来ないことを知りながら何十年も何百年もこの壊れた星へ。君、無駄だよ。そう言ってくれた人も何人かいたけれどそうしてやめてしまったら本当に壊れてしまうでしょう? #twnove


    敵の数はと斥候に問えばおよそ千とも二千ともと答えが返る。対する味方は三十余。最初から勝負になどなりはしない、ただ意地を通すためだけの戦だ。「惚れた相手に背中も命も預けられるたぁサムライ冥利に尽きるな」「馬鹿抜かせ。やるからには勝ちに行く」ああ、本当その目好きだわ。 #twnove


    薄暗い電灯が怯えたように身動ぎする。真夜中バスを待つ少年が目に留まった。飲み過ぎて終電を逃した駄目大人は声をかけてみる。「こんな時間からどこ行くんだ」「ずっと遠く」「オジさん帰りたいんだけど、バス来るの?」「来るけどオジさんは乗っちゃ駄目」それは昔死んだ級友の顔。 #twnove


    好きだよと濡れた声が耳元で囁く。その熱で掠れた言葉が嘘だとは思いたくないけど僕はあくまでも代わりでしかないことを知っている。貴方が未だその薬指の指輪を外さない理由を。溺れるように激しいこの行為の先に貴方が誰を見ているのかを。今、似ていると言われた目を抉り出したい。 #twnove


    秋の夕暮れは釣瓶落としとはよく言ったもので、先程まで茜色に染まっていたはずの辺りは今はもう宵闇の濃い気配に包まれている。早く帰らないと人食い鬼が出るよなんて戯れ言を信じるほど幼くはないけれど、成程黄昏時は誰そ彼時。隣に立つ君の影も危うい。ねえ、本当に君は君だよね? #twnove


    冬に向かう季節が好きだ。陽射しが翳りを帯びて風が冷たくなり木の葉が色づいて落ちるこの季節が。「俺ぁ寒いのは嫌いだ」早くも薄いコートを羽織った君がしかめっ面になる。その手を取って上着のポケットに突っ込むとこっそり指を絡めた。近くなる距離、不自然じゃなく見えるだろう? #twnove


    箒の真似をして薄を振り回している子供たちを横目で見ながら、狐は供物の酒を煽り続ける。明日は大事な五穀豊穣の神事があるってのに、主役が赤ら顔に千鳥足じゃ締まらない。苦言を呈そうと口を開きかけた僕に先んじて「……テメーとは、あと何度一緒にお月さん眺められるんだろうな」 #twnove


    嫌だと泣いて縋る背中を見えなくなるまで送って軍靴の紐を結び直す。死出の旅路に供なぞ要らねえ。お前はお前の道を生きろ。上着を羽織り刀を佩く。俺にはこれ一本あればいい。新しい時代など生きる資格も理由もない。見下ろす窓の外には敵軍。参ると叫んで身を踊らせればあとはただ、 #twnove


    これを買って頂戴と女が持って来たのは指輪だった。可愛らしいデザインのそれは元彼のプレゼントらしい。「他に何かお求めは?」女は全く違う雰囲気の服を買って帰った。女はいつも過去を売って未来を買う。続いてやって来た男がその指輪を買った。新しい出逢いと言う未来を売って。 #twnove


    いつか貴方を背負えるくらい大きく立派な大人になるのだと夢見ていた。いつも見上げたその広い背中のように大切なものを守れるくらい強くなりたいのだと。けれど現実は残酷だ。僕が大人に成る前に立派に強くなる前に貴方は死んだ。首だけになってしまったその重さの、何と軽いことか。 #twnove


    君強いなあと背後から唐突にかけられた声にすわ新手かと不覚にも焦燥感に狩られた。多勢に無勢、ねじ伏せたとは言え傷は浅くない。振り返れば背の高い男が両手を上げて立っている。「安心しろ。敵でもお巡りでもないよ」「じゃあ何だ」「捜し物。なあ、君ちょっと手伝ってくれないか」 #twnove


    誰にも話してはいけないよ?彼は堅く私にそう約束させて毎月きれいな月夜の逢瀬を了承してくれた。言いたくとも誰も信じてくれはすまい。私が魅せられたのは白光に輝く金色の毛並み。二人だけの秘密の関係。認められなくとも
    今日も私は誓いを新たにするキスを思って暗い森を行く。 #tw月の友13


    一度足を踏み入れたら、そこから抜け出すことは途轍もなく困難だ。どんなに強い意志の持ち主でもきっと一度は膝を屈するだろう。「なあ、喉乾いた。コーヒー飲みたい」「自分で煎れろ。もしくは上のみかん食え」抱き締められた腕の檻に微睡む。冬にはコタツとみかんと君があればいい。 #twnove


    競り上がる熱を堪えきれずに咳込むと口元を押さえた指の間から濁った色の血が滴った。ああついに、もうここまで来てしまったのか。血など吐かねば体内に燻る熱も国を憂う故のものだとごまかせたのに。だがまだ明日に控えた戦を前に死ぬ訳には行かない。保たぬと言うなら今起つまでよ。 #twnove


    助けて、と言われたから力を貸した。僕にはその人を護るだけの力があったから。乞われるままに妖かしを斬り幾度となくその血を浴びて戦う僕に、投げられたのは「寄らないで化け物」と言う罵倒。奴らと対等以上に戦う僕は人ではないと言わんばかりに触れた額ーーいつからか生えた角が、 #twnove


    Trick or Treat と拙い発音で手を伸ばして来る子供たちの掌に、飛び切りの魔法を込めたキャンディーを落として行く。様々な物語を込めた甘い罠を。君たちは一体どんな結末を選んで、私を楽しませてくれるのか。選択を迫るのは、何もねだる方だけの特権ではないのだよ。 #twTorT