これを、と渡された襷は経て来た時間のせいでうっすらと汚れていた。けれど僕は傷ついて今にも倒れそうな彼の手から躊躇することなくそれを受け取る。十人分の想いが乗せられた布は見た目に反して随分重い。染み込んだ血と汗と涙とたくさんの願いを十二月に届けるため僕は今走り出す。 #twnove


    昔からもう一人の自分に会うと死ぬと言われている。それでも俺はもう一人の自分を捕まえて問いたい。あの選択で恐らくは今とは違う答えを選び別の道を歩いた自分に。あの人は助かったか。俺が選んだ答えは間違っていたのか。結局は向こうからも同じ問いが投げかけられるだけだろうが。 #twnove


    身動ぎして古びた街灯が雨の中にぼやけた光を吐き出すのを窓越しに見つめる。静まり返った部屋に彼の気配は既にない。雨宿りするようにその傘に飛び込む蛾を見てまるで自分のようだと思った。彼にとってはこの戯れも幾つか内の一つに過ぎない。残された吸い差しの煙草をそっとくわえる。#140SS


    「ああ言えばこう言う」をテーマに(しかしその語を使わずに)140字SSを書いてみましょう
    https://shindanmaker.com/430183
    打てば鳴る太鼓のように間断なく返される言葉。お前は俺を否定する答えしか寄越しはしない。まあ、減らず口も悪口雑言の罵倒もお互い様で、多分お前も俺のことを最悪だと思ってるんだろう。「本当俺お前のそう言うとこ嫌いだわ」「俺はお前が好きだ」言い訳はもうやめにして素直に告げると返る丸い目。


    「さあ、好きな方を選べ」男が銃を突きつけながら選択を迫る。老いた老女か幼い少年かーーその命の重さに違いなどあろうはずもない。片方だけを選べるはずがない。俺は迷わず男に銃を向ける。どちらが助かろうがどちらが死のうがそれはお前が成したこと。正義の在処など知ったことか。 #twnove


    未来が見えると言う遠眼鏡を助けた貿易商から貰った。果たして俺たちは勝ったのか。この国は平和になったのか。酒の肴に見るかと問えば奴は鼻で笑って杯を呷った。「既に出来てるものは未来なんて呼ばねえ。これから俺たちが作るのが未来だ」夢も希望もこの手で掴んでこそと言う訳か。 #twnove


    恋人同士がじゃれて繰り広げるポッキーゲームなんて下らない、と思う自分は冷めているんだろう。だからって可愛くおねだりしたところで頭の心配をされるのは確実だ。あいつはああ言うの疎いし、知っててもやらないだろう。溜息混じりに煙草をくわえて火をつけたところで、屋上の扉が開いた。「ライター切れた。火貸せ」そうおもむろに近付いて俺がジッポーを取り出す前に間近で煙草の火種から自分がくわえるものに火を移す奴に前言撤回。こいつは確信犯だ。 #twnove


    僕と君とはいつでも半分。大事なものを好きなものを分け合って生きて来た。半分のパンに半分のクマのぬいぐるみ、汚れた毛布も穴の開いた靴下もみんな半分。ある日僕と君には友達が出来た。三は仲違いの数だと誰かが言っていたけど問題ない。僕と君とはいつも通り好きなものを半分こ。 #twnove


    これからお前は「悪」になりなさい。考え得る限りの罪を犯し出来る限りの暴虐を尽くし人から恐れ憎まれ疎まれて一身にそれを背負い続けなさい。私はその必要性を尊く思います。神様から渡された運命を過ごし数千年。本当は僕だって正義の味方が良かったと思いながら断罪の刃を受ける。 #twnove


    成す術もなく倒れて行く仲間たちに嘲るような弾雨がなおも降り注ぐ。硝煙で焼けた風が血と臓物の臭いを運び苦悶の声と悲鳴を浚う。続く爆発音と破壊音。瞬く間に地獄と化したこの場を打破する武器がこの手にはあると言うのに。「発砲許可が下りません」正義などどこにもありはしない。 #twnove


    もう行っちゃうのと問うと彼は困ったような笑みを浮かべた。「うん、来週また来るよ」「そんなに待てない」ずっと一緒にいたい。一緒に暖かい布団でごろごろしてテレビ見てお菓子食べて。「でも君は明日から仕事。そうだろ?」宥めるようにキスを落とすと日曜日は扉の向こうに消えた。 #twnove


    『目を閉じれば』をお題にして140文字SSを書いてください。
    いいからちょっとこのままでいてごらん、と言う囁きに負けて目を閉じれば途端に不安に包まれる。揶揄して去ってしまうのではなかろうか、怖いことをされるのではなかろうか。けれど触れたキスはいつも通り優しい。鋭敏になる嗅覚と聴覚に身体が熱くなる。解放されて促され、開いた視界には薬指の指輪。


    「さっさと支度しろ!」怒声と共に制服が投げつけられる。頼んでもいないのに毎朝お越しに来てくれる幼なじみの月曜日。低血圧の私は気が重い。「別にいいよ、先行って」言えば髪を結う手がばしりと頭をはたいた。「馬鹿、朝一からわざわざ来る理由くらい察しろ」見上げた頬は赤くて、 #twnove


    どんな些細にも喜びや楽しみを見つけられるのは才能だと思う。いつも笑顔の絶えない火曜日もそんな感じ。勉強は嫌いと言いつつ学年問わずの友人に囲まれわいわいやっている。「学校楽しい?」「おう。会社、楽しくねえの?」だから今日は彼に倣ってとびきりね笑顔で「ううん、楽しいよ」#twnove


    「疲れてるな」差し出されたカフェラテをありがたく受け取る。掌にじわりと広がる温もりは水曜日課長の持つ雰囲気によく似ている。「俺は出来ると思った奴に仕事させる主義だ」任せていいなと言われたら頷かざるを得ない。はいと答えると上出来と返る笑顔が好きなんて言えないけれど。 #twnove


    初体験はかなりの痛みと少しの出血を伴った。何も変わらないようでいて確実に何が変わった。涙の滲んだ目元を雑に拭い彼は呆れたように溜息をつく。「そんなに同じがいいかよ」「うん」左耳には彼の右耳を彩っていたピアスの片割れ。お前を守ると言った貴方の背中を守る僕の誓いの証。 #twnove


    最近毎日机に齧りついてのコンビニおにぎりとカップ麺な昼食を見かねたのか「ランチ行こうか」と木曜日に誘われた。別に仲がいい訳でもなくてたまに挨拶する程度なのに不思議と沈黙のテーブルは不快じゃなかった。「僕甘いの駄目だから食べて」差し出されたデザートは優しい味がする。 #twnove


    遊ばないなんて勿体ないと言うのが金曜日の言い分だった。短い人生自由な時間は限られているのだからとあれもこれも予定を詰め込もうとするものだから付き合う方は大変だ。疲れていると言うのに休みも大事だよなんて言葉には耳を貸さない。「だってぶっ倒れたらお前が看病してくれる」 #twnove


    いつもより少しおしゃれしてお化粧も頑張って土曜日に会いに行く。お気に入りの喫茶店で毎週この時間にいる人。今日も眩しいギャルソン服にいつものと注文すると畏まりましたと笑顔が返る。ロイヤルミルクティーとバターの効いたクッキーと彼の笑顔が一週間頑張った自分へのご褒美だ。 #twnove


    メーデーメーデー、聞こえますか。世界はまだ夜の中、地平線から差すはずの日もまだ見えません。けれど諦めないで。前を向いて。貴方は独りじゃありません。背を伸ばして立ち上がって。変えるためには足を踏み出さねれば。さあもうすぐ夜明け、新しい時代の始まりです。 #satellitepoem


    メーデーメーデー、聞こえますか。貴方は今どこにいますか。あれから五年、貴方が死んだなんて未だ信じられず今日も貴方を捜しています。この世界を守るために大事なものを護るために刀を取って前を行く貴方に追いつくために。振り返りません。ずっとここで待ってます。 #satellitepoem


    玄関を開けるといい匂いが鼻をくすぐった。俺が好きな肉じゃがだ。少し甘めの味付けが口の中に蘇り思わず腹が鳴る。ただいまと声をかけるとエプロン姿がお帰りと振り向いた。誰かが待っていてくれるのは暖かく明るい部屋で迎えてくれるのは有り難い。それが惚れた相手ならなおのこと。 #twnove


    ああ、何てこった。そんなつもりなんかなかったのにただみんなの反応が楽しくて悪戯しようとしただけなのに。「鬼が出た」なんてみんな本気にしないと思ってた。武器を片手に山へ入る大人たち。その先にはひっそりと暮らす人ならざる僕の友達がいる。 『紡いだ嘘の行き先は』 #創作 #お題


    ナイフとランプと夢と希望。小さな頃の僕の鞄にはいつもそんなものが詰まっていた。裏山へ行くのすら冒険だったあの日と比べ、僕の身体も鞄も大きくなった。トランクを荷台に積んで走り出す。夢と希望の代わりに入った元恋人の死体を捨てる旅に出る。 『旅人がトランクに詰めたのは、』 #創作 #お題


    この業界は何故か昔からお客が絶えない。札束いっぱいのケースを押しやる男に俺はほくそ笑んだ。殺したいならこの鞄で頭をぶん殴ればいいのに人間はとことん自分だけ安全圏にいたいらしい。OKOK。さあ趣味と実益を兼ねた仕事へ行こうじゃないか。 『千客万来悪徳稼業』 #創作 #お題


    世界を壊すなんてのは訳ないことだ。本当はその手をぎゅっと握り締めるだけで音を立てて砕け散り儚く消える。ただそうしないのは曲がりなりにも愛したお前がそこに生きているからでそこで笑っているからで、ああどうかその美しさが損なわれぬように。 『手のひらの中で世界は消える』 #創作 #お題


    何も毎日拝めとは言わないし何より大事にしろとは言わないし絶対的に信じろ疑うなとも言わないし俺の言葉が全て正しいとも言わないし変な戒律作って縛らないしたまに料理が手抜きでも文句言わないしいつも笑って俺の傍にいてくれればそれでいいんだ。 『俺を愛して(信仰より簡単だろう?)』 #創作 #お題


    とっくに気持ちの整理はついたはずなのにいざその時になると気持ちが揺らぎます。正面から伝える勇気がないからこんな形でごめんなさい。貴方から切り出される前に最後の言葉を口にする私の弱さをどうか笑って。サヨナラを送信した指先が泣きました。『指先が泣きました』 #創作 #お題


    まるで要塞じみた鉄の船が火を噴く度に海岸線に並んだこちらの大砲が無惨に砕けて沈んで行く。春の訪れと共に死を連れて来た敵軍の攻撃は容赦ない。お前たちの夢幻郷は所詮偽物だとあざ笑うようにその船影は大きくなる。あの人のいない今となっては、『沈む大砲、夢幻郷』 #創作 #お題


    好きだよ、と囁いたのは君の信頼を得るためだった。愛を得るためだった。君が亡き祖父から受け継いだ莫大な遺産ーーそれを奪ったらさっさとおさらばするつもりだった。それなのに嘘だと知らずはにかんで笑う君の「私も愛してます」の声に胸が高鳴る。『好きと語った、騙って堕ちた』 #創作 #お題


    逃げちまえ、と貴方は私の小指にキスを落とす。はまった指輪をくわえて外すと、小さな金属は乾いた音を立てて地を転がった。「泣くくらいなら俺と来いよ」罪にまみれた未来でも自分の気持ちに嘘はつけない。その手を取ってベランダから身を踊らせた。『触れた指先盗んだ小指、搦めた指輪が地に落ちる』 #創作 #お題


    誰もいない舞台の上では爪先の刻むリズムが映える。それを知っているからか真夜中一人で踊る彼女の姿はとても美しい。全ての束縛から解き放たれた自由な魂そのままに指先が視線が抱えた哀しみも切なさも愛しさも訴えて来る。その儚さを見ているのは彼女のためだけのスポットライトである私だけでいい。
    #リプもらった曲を聴いてその曲でssを書く 東方/神起で「bolero」


    約束は何度すっぽかされただろう。とっくに時間を過ぎた時計を見遣って私は立ち上がった。本当は貴方が来ないことなんて解っていた。私は貴方の隣に立てない。鐘の音と共に祝福されて扉を出て来る花嫁を見ながらスーツケースを引く。いつまでも夢見てる場合じゃないとこの街と貴方にサヨナラを告げた。
    #リプもらった曲を聴いてその曲でssを書く 大貫/妙子で「エトランゼ」


    何でこの部屋にしたんだよと恨みがましい声がバスルームから聞こえる。そんなことを言ったところでもう遅いし今さらだ。何やかんやした後でお互いのいろいろで汚れた黒いシーツを見やって溜息をつく。未だにこれくらいで動揺するなんて可愛いもんだ。『ベッドシーツを汚した痕』 #創作 #お題


    後悔をしたことがないと言えば嘘になるだろう。けれどこの手を汚すことで誰かが救われるならそれで構わない。何より他人を踏み躙って来た奴らが泣いて赦しを乞うのはいっそ快感だ。今夜も俺は獲物の銃を片手にビルの谷間に身体を躍らせる。無様な最期を晒して冷たく地に転がるきっと遠くない未来まで。
    #リプもらった曲を聴いてその曲でssを書く からIce/manで「 Strike Back of PSYCO」


    今日もお仕事?と可愛く首を傾げる娘に戸締りをして寝るんだよ、とおやすみのキスを送る。褒められたものじゃない。誰かの命を奪って金を貰うなんて。きっと真実を知ったら貴方はいってらっしゃいと言ってくれないだろうから何も知らないままでいて。『貴方は何も知らずに笑っていて下さい』 #創作 #お題


    赤色同盟の会合が今宵密かに行われる。路地裏の看板すらないバーに集まる客は皆赤い服を着なければドアを潜ることは出来ない。赤、朱、紅、緋、レッドの渦に眩暈がしそうだ。紳士も淑女も挙って己を染め上げて夜闇に火焔の花が咲く。杯片手に笑うその口元からは目立つ犬歯がほら、 #36andyou