随分といろんな種類があるものだ、と目の前に並べられたパンフレットを眺めてそう思う。平凡、波乱万丈、激動、安寧、人の好みは実に多種多様である。どれになさいますかと促され僕が手にしたのは平凡。保証はしかねますなんて台詞に冷や汗が浮かぶ。『人生パンフレット』 #創作 #お題


    そもそも悪人しかいないのがいい。どれだけ暴れても責められないのが最高だ。俺みたいな人間は浮き世のぬるま湯じゃ物足りぬ。ましてや正義の名の下に非道を行う天国なんざ頼まれたってごめんだね。さあさあ皆様お立ち会い。派手に行こうか地獄道中。『地獄はきっと幸せへの路(虚言に満ちた天国よりは)』 #創作 #お題


    図書館から借りた本にメモ書きが挟まっていた。古い本によくありがちな栞代わりのものだろう。買い物リストか何かの連絡先か。裏返したそこに綴られていたのは切なさ溢れる自作らしきラブソング。見えない誰かを応援したいと思ったのは初めてだった。『ページの合間のラブ・ソング』 #創作 #お題


    子供は体温が高いと言うがならば暖かいこいつが子供じみているのは仕方ないことなのかもしれない。腕の中抱き締めた温もりから聞こえる微かな寝息が耳を打つ。おかげで夜に沈まずにいられるのは感謝しているとたまには素直に告げるべきなのだろうか。『微かな寝息が耳を打つ』 #創作 #お題


    ここは昔大きなお城のあった場所。立派な王様と綺麗なお妃様と可愛い王子と姫が暮らした場所。今は崩れて苔むした城壁の一部や塔の欠片が残るばかりで、そんなことを覚えている人は誰もいない。時折聞こえる歌声はそれらが紡ぐかつての残映、名残夢。『廃墟の見た夢』 #創作 #お題


    酔った挙げ句の一夜にすまないなんて言葉は野暮だと思う。途方に暮れたような顔でこちらを見やる相手に焦れて片手を突き出してやった。「二万でいいよ。あとここの支払いよろしく」萎えるような真似してくれんな。また会いたいなんて面倒言わねえよ。『罪悪感なんて持たないでよ面倒だから』 #創作 #お題


    ああ、どうして僕は未だここに立っているのだろう。父と母が殺された時も恋人を奪われた時も彼の傍で「陛下の御意であられますれば」と笑い続けて。張りついた偽りの感情は今さら剥げ落ちやしない。無実の罪を着せられて断頭台に据えられた今ですら。『泣きたかった叫びたかった、それでも笑っていなければならなかった』 #創作 #お題


    真夜中月が天辺に昇る頃部屋の姿見をノックすると君が姿を現す。調子はどうだと問えば悪くないねと答えが返るのはいつものこと。けれどこちらは君が向こうに行ってから楽しみが減ったよ。まだ帰れないと言うなら顔を見せずにいてくれた方がいいのに。『鏡の向こうの君に告ぐ』 #創作 #お題


    これ以上生き恥を晒しているのもどうかと思うのです。そう言って彼の手に脇差しを握らせた。逆手の切っ先は無論あと少し深く押し込めば腹に突き立つ位置にある。せめて最期くらいは無様を見せないでください。縋る眼差しを一蹴して笑んだ。復讐完了。『自害推奨』 #創作 #お題


    最低!と言う声と共に高らかに頬を張られた音が響く。ああまたフられてやんの、と先輩を見下ろすと視線に気付いて苦笑が返される。いい加減相手のプライドを傷つけないための配慮なんかやめりゃいいのに。その優しさを理解しない馬鹿女には勿体ない。『負け上手』 #創作 #お題


    六文だよと差し出された手に握った小銭を渡すと渡し守はどうぞ地獄行きのお客さんと身体をずらして透き間を空けてくれた。この船ももういっぱいだ。ぎいと櫓が鳴り軋んだ音を立てて船が水面に滑り出す。ああ水が赤いのはきっとこの手を汚した君の赤。『血色の河の渡し船』 #創作 #お題


    こう答えれば、そいつの好きなものを渡せば好感度が上がる。無意識の内に働く計算式が理想の自分を周囲に提供する。それは概ね好評なのに君から返る答えだけがいつも想定外の予想外。用意した展開の遙か斜めを行くそれにいつしか惹かれているなんて、『恋を差し引く算盤勘定』 #創作 #お題


    今日も今日とて俺の足下には、斬り捨て撃ち抜き中身をぶちまけさせた死体が数多転がっている。それが唯一俺の仕事だ。女も子供も老人も根刮ぎ隈無く蹂躙する。罪悪感?生憎こちとら産まれた時から地獄暮らしが長くてな、ハナからんなもの持ってない。『天国への入場許可証』 #創作 #お題


    何、大したことじゃない。みんなやってるし危険もない。それに今時最先端な連中は大概経験済みだよ。甘言狂言舌先三寸口八丁。あらゆる誘惑の言葉をばらまいて今夜も俺は哀れな仔羊を祭壇に運ぶ。世の中そんなに甘くない。あの世に行けたら後悔しな。 『無知の代償』 #創作 #お題


    頭の中で一体何度私は貴方を穢しただろう。跪かせて獣のような行為を強いて蹂躙しその魂を引き裂いて屈伏させたつもりになっただろう。そんなことをしても貴方の眼差しの強い光は微塵も陰りはしないのに。今日もまた仮面を被り忠実な僕のふりをする。『こんなにもこんなにもこんなにも穢したいのに、』 #創作 #お題


    蝶を名乗るなど烏滸がましいにもほどがある。お前は蛾だよ。毒の鱗粉をばらまきながら誘われたふりをして次から次へ男と言う灯りを渡り歩く蛾だ。そう言うと女は真っ赤な紅を引いた口唇に弧を佩いた。蛾の羽の模様は相手を惑わせるためにあるのだと。『美しき毒蛾』 #創作 #お題


    放られた紙幣を拾い上げて唾を吐き捨てる。早いしヘタクソ。どうせ買われるならせめて優しい奴がいい。なんて戯れ言どうでもいいけど。これでようやく指輪が買える。端から見れば安っぽい玩具でも確かな想いはただ一人心底惚れた貴方にだけ伝えたい。『純情なるあばずれの恋』 #創作 #お題


    1.この世界から食べ物を消しなさい。全て腐らせ毒を盛り、飢えて笑顔がなくなるように。2.この世から子供を消しなさい。あの無限の生命力と無垢な魂は人を元気にさせるから。3.この世から夢と希望をーーおや、これはとっくの昔に潰えていたね。『幸福論殲滅定義』 #創作 #お題


    四六時中貴方のことを考えて何も手につかず他の物事は全て疎かになり夜も眠れなくて夢の中ですら貴方に焦がれてどうしようもなく欲しくて僕のものにしたくて髪の先すら誰にも渡したくなくてその息の根を止め心臓を貫けたら僕はもう死んでもいいのに。『これは恋ではない、無論愛でもない。それを遙かに上回る憎しみなのだ。』 #創作 #お題


    さあ早く行けと細い背中を押して促す。本当なら安全な場所まで連れて行くことが俺の役目だろうが君を護りながらそれを果たすのは少々荷が重い。刃が欠け血と脂で鋭さを失った愛刀を構え迫る軍勢を見据える。君が生きてさえいれば他に望むものはない。『さいごのさいごのその瞬間まで、ずっと君が好きでした』 #創作 #お題


    「貴様等一体何者だ?」床に這い蹲った負け犬が苦し紛れの呪詛を唱える。敗北を喫するなど夢にも思わなかったと言う顔が屈辱に歪む。圧倒的な絶望的な死を前に自分を殺す者の正体など何であってもよかろうに。知る必要はないと嗤って刃を振り下ろす。 『果たして我らが何者であろうとも、(お前になんの関係が有る)』 #創作 #お題


    私が怯えて泣くだけの無力な羊だと思ったら大間違い。無言電話も大量メールもビラも今日でおしまい。ドアの鍵を探すふりをしてあいつが追いつくのを待つ。肩にかけられた手に思い切りスプレーの中身をふりかけた。さよならゴキブリ野郎地獄に堕ちろ。『殺人剤(人ニ向ケテゴ使用下サイ)』 #創作 #お題


    才能がないことは最初から誰より自分が解っていた。努力は上塗りしても越えられない一枚の壁があることも。それでもあの日最後にしようと渾身込めて描いた絵を、ただ一人貴方だけが「俺は好き」と褒めてくれたから私は決定的に選択を誤ってしまった。『貴方がいたから、私は此の道を選んでしまった(貴方さえいなければこんな事には。)』 #創作 #お題


    ご丁寧に予告状を送ってやるのは例えどれだけ警備されようと金庫に閉じこもられようと目標の頭を撃ち抜いて脳味噌ぶちまけさせる自信があるからだ。喉笛斬り裂いて悲鳴を上げろ。のたうち回って足掻いて見せろ。死神の鎌はテメーの首にかかってるぜ?『地獄からの案内状』 #創作 #お題


    神様あんまりだ!!と天を仰ぐ馬鹿の頭を一つ小突いて俺は新しい煙草をくわえた。ただで仕事が成るなんて甘いこたぁ考えちゃならねえ。味方が三人吹き飛ばされたくらいで動揺するな。相手は暴力と破壊の権化の化物だ。クールに行こうぜと刀を構える。『想定範囲内の惨事』 #創作 #お題


    するりとタイツが滑り落ちて紅いペディキュアの塗られた裸足が露わになる。白い踝との対比に眩暈がしそうだ。他の誰も知りはしない。色気のないローファーの下に優等生の仮面の下にこんなものが隠れているなんて。背徳感に駆られながら口付けそして、『紅色の爪先』 #創作 #お題


    おおぴったりだ、君ぞ我が姫我が花嫁!なんて魔女からもらった硝子の靴を片手に手を差し出す王子様に私は笑みを浮かべたまま足に力を込めてきれいな玩具を踏み砕いた。何て下らない茶番なのかしら。顔の一つも判別出来ない愛なんて随分とお安いこと! 『硝子の靴を打ち砕き』 #創作 #お題


    猫舌ってのは不便だ。そいつの一番美味しい瞬間を食べてやれないのは一種の冒涜なんだぞ。そう言いながら彼は今日も猫背でココアを啜る。ふーふーと冷ましすぎてぬるくなったそれがまだ熱かったのか一口でカップを放してしまった。甘い髭の生えた口唇にキスをして「俺も今が一番美味いけど?」と誘う。 #エアコミケ


    円卓囲んで酒呑みながらああだこうだと指示するだけのお偉方はどうだか知らねえがこの国潰せと命ずるのだからやはり戦時中なんてまともな奴はいないんだろう。眼下の大軍に思わず笑みが浮かぶ。人間兵器と蔑むならばその威力を己が身で味わえばいい。 『狂気は何処だというのなら、それは此処だと応えればいい』 #創作 #お題


    時計の針は一体何周しただろう。眠れないのはすぐ隣りで君が眠っているから。ヨコシマな想いを抱いた狼がすぐ傍にいるとも知らないで。視線を逸らして電球を見つめても速い鼓動は収まらない。いつの間にか時計と同化してカウントダウンをするように。『ベッド、天井、秒針の音』 #創作 #お題


    毎週土曜に届く手紙には表に「親愛なる」から始まる私の名前以外差出人も文章も何一つ書かれていなくて、いつも真っ赤な薔薇の花弁が挟められている。開けた途端に香るそれが代わりに伝えて来るのは狂おしいまでの想い。ええ、知っていますわ旦那様。『真っ白な恋文』 #創作 #お題


    行って参りますと告げた途端君の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。恐らくもう二度と今生で逢うことはないだろう。ご武運をと返された声は震えていて悲しくなった。最期に君の向日葵みたいな笑顔が見たい。そう願う僕の方こそ上手く笑えているだろうか?『顔をあげて僕を見て。もうこれでお別れなんだから。』