センリにとって可愛くあることは、権利と言うより義務であり、才能と言うより趣味である。
     服もメイクもネイルも、ピアスもスイーツもペットのダイフクも、全て己のあざとさを際立たせ、プロデュースし、飾り立てるためのアイテムに過ぎない。何が似合うか、より一層自分を可愛く見せてくれるか、彼女は本当によく知っている。
     時折、媚びてるだの何だのと口汚く罵って来る輩がいないこともないが、そんなことでつけられる傷など一ミリだってなかった。
    「口惜しかったら、アンタらだって可愛くすればいいじゃん」
     ふん、と鼻で笑って中指を立てるのは、可愛くないので割愛。
    「私は私の好きなようにやってるだけだよ」
     可愛いは正義。
     可愛いは無敵。
     だからセンリは、誰にも負けない。


     パン……ッ、と言う破裂音は想像しているより随分軽くてぞんざいで、ドラマや漫画の中で奏でられる物々しさなんてものは微塵もないのだ、と言うのを知ったのは最近のことだ。
     それでも掌に返って来る衝撃は、振り撒かれる火薬と硝煙は、すぐ目の前で脳みそをぶち撒けて倒れ込む男の存在は、紛れもない現実で。
    「くそ……っ、何てガキだ!」
    「やめて、ガキとかオンナとか言うの。可愛くないじゃない、そんな理由」
     照準を合わせるのが遅い男へナイフを投擲。切っ先は狙い通りにその太い喉を貫いて壁へ縫い留めた。
    「誰だよ……ヤるのちょろいなんて言ったのは……」
     青褪めて後退さる男たちの背中が、壁にぶち当たる。可哀想に腰が抜けたのか、まともに立っているのは一人だけだ。
    「私が可愛い恰好してるのは」
     惜しげもなく晒された瑞々しい生脚も。
     チラ見えしそうな胸元も。
    「私が可愛い私を好きだからなだけであって、決してアンタたちみたいな奴らのためじゃない」
     す、と温度を下げた眼差しの冷酷さは、決してセンリが『初めて』ではないことを物語っている。身体の奥底から突き上げる衝動ーーこいつらを許すなと叫ぶ何かは、
    「可愛くないものは嫌い。だから、死んで」
     研ぎ澄まして、
     磨き上げて、
     可愛くあることと、獲物を始末することはよく似ている。
     センリがセンリであるための、二つの要素は矛盾しない。

    「あ、ボス……今、仕事終わりました。あと、この銃可愛くないんで変えてください。握りの部分にオシャレな模様入ってるやつにして」


    以上、完。
    庭草版タイトルパレット 作成者niwan0w様