仕事柄と言うか土地柄と言うか、『元人間』の無残な姿は見慣れているつもりではあったが、いかんせん趣味が悪過ぎる。
写っていたのはいずれもかつて生きていたことが想像も出来ないほど、解体されバラバラに切り刻まれ、中身をぶち撒けて『芸術品(オブジェ)』として飾っているつもりらしい何かの残骸であった。背景が全てゴミ捨て場であったのも、さらに胸糞悪さを加速させる要因だろう。
「これの犯人を探して欲しい」
「………………あー、これティーグさんとこの娘(こ)?」
「いや……どの娘もうちの傘下じゃあない。個別で客を取ってた野良の子さ」
ぎり、と煙草のフィルターを噛み締めながら忌々しげに顔を歪めてみせるこの女帝が率いる白虎クランは、多くの娼店を抱えている。
華やかな雰囲気に惑わされがちではあるが、この街で色を売ると言うのはトラブルと隣り合わせを意味することもあり、その兵力が他の三クランに劣ることは決してない。
そしてそのクランの後ろ楯がない、と言うことはすなわち取った客に何をされても文句が言えない、と言うことである。
それこそこうして、ぐちゃぐちゃの何かにされたとしても。
「…………それでウチに」
「あたしのシマで看板に泥塗る真似をしたんだ……怖がって店に出たがらない娘も増えた。落とし前はつけてもらわないとね」
この人工島へやって来るのは、何も反社会的勢力に属する者ばかりではない。
発覚すれば一生刑務所から出られないような、薄暗い欲望をどうにかこうにか飼い慣らしながら息を潜めて生きている者は存外多い。病的な衝動を抑え切れなくなって、『ここでなら』何をしても構わないと流れて来る変態も少なくないのだ。
けれど、このタイクーンのどこに潜んでいるか解らない殺人鬼を炙り出すために兵を動かせば、他組織との要らぬ軋轢を産みかねない。絶妙な均衡の上に成り立っている平穏をむざむざ壊そうとするほど、上の人間は愚かにも破滅的にもなれないものだ。
故に絶対中立の何でも屋にお鉢が回って来るのである。
「オーケー、どのくらい残せばいいですか?」
「首だけなら五、生かして捕まえたら七でどうだ?」
「承知しました、じゃあそれで。期限はなる早ってことでいいですね?」
「……宛はあるのかい?」
「いいえー特には」
じ、と写真を見つめたまま身動ぎもせず声もこぼさないトワを促して立ち上がる。
「これ、詳細あとでメールください。これ以上人死は出しませんから」
この街には正義などない。
倫理も法も道徳も、おおよそヒトが集団で生きて行くために必要な最低限の鎖は存在しない。
己を守れるものは己だけで、才覚も運も尽きた者から死んで行く。
それでもこの街にはこの街なりのルールと言うものがあるのだ。その不文律を足蹴にした報いは当然受けなければならない。
「さてと……じゃあ、行こうかトワ。3/4殺しまでで」
眠れる虎の尾を踏んだ不調法な輩を釣り上げて、誰にケンカを売ったのか解らせてやらねば。
→続く
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