6.

     喫茶店『HOWL』を後にした閃光は、そのまま携帯端末でスワロウテイルに連絡を取った。獲物と目標物についての詳細な情報を得るためだ。
     情報屋はまたも間髪置かずに応対した。
    『無事にお仕事貰えたみたいだねー。よかったよかった』
    「まだだ。これを完遂して、獲物を渡すまでは終わった訳じゃねえ……だからさっさと詳細な情報くれ」
    『んふふ、了解〜。じゃあ、今回の報酬はお金じゃなくて、二代目の坊っちゃんの生写真とかがい』
     ぶち、と通信を断ち切って煙草をくわえる。堪えていた緊張がどっと今頃押し寄せたものか、火を灯すまで五回もジッポーを鳴らすはめになった。おまけに吸いつけた紫煙が変なところに入ったせいで噎せた。
    ーー落ち着け……大丈夫だ、俺ならやれる……
     今までは、何か失敗しても自分一人の責任ですんだ。誠十郎に庇われ守られていた。間違えても正解を最適解を教えてもらえた。今、その後ろ盾はない。
     寧ろ、その名を掲げることで負わねばならない責任の重さが増えた。ただの独りの少年が、日々生きるために行って来た軽犯罪(もの)とは比べ物にならないーーそれが伝説であった養父の『名』を背負うと言うことだ。
     好き勝手気ままにやればいい時期は過ぎた。一度失敗すれば取り返しはつかない。表に裁かれるか、裏に裁かれるか、違いはただそれだけで、その先に待つのは死あるのみ、だ。
     初めて自分からやろうとする大き過ぎる目標に、高過ぎる壁に、見えない重圧に、もう萎縮して潰されてしまいそうなのを、必死に踏みとどまって思考を巡らせる。
    ーー心配するなら絶対ミスらない計画を立てろ……これ以上ないくらい練り込んで、考えて考えて、立ち止まるな!
     引金は既に引いた。
     もう今さら後戻りは出来ないのだ。

    →続く
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