「閃光……良かったんですか? 呪いのこと、彼らに話してしまって……」
     部屋に入ると、ロキが心配そうに眉を寄せて問うて来た。
     余計な客間などない李家の納屋を片づけて、無理矢理開けて貰った場所だ。真夜中にそんな迷惑な重労働をさせて申し訳ない、と思う反面、やはり彼にとって一番の気がかりは主人である閃光の身上であることは変わりない。
     今まで関わった人間全てに積極的に口止めして来た訳ではないが、自分の能力がなるべくばれぬよう努めて来た閃光が、自分からそれを口にしたのは今も協力関係にある者たちを除けば、ロキの知る限り初めてのことだ。真実を知った者が危険に晒されるかもしれない。そしてそれ以上にその本性を知られてしまったら、どんなに親切にしてくれた者でも怖れて掌を返すように忌避して来るだろう。
     それは生まれてから何度となく経験して来たこととは言え、本当はそれほど頑丈でも図太くもない閃光の心を緩やかに傷つける。
     そこまで深く関わるでもない人間に、説明する必要はなかったのではないだろうか。
     が、閃光は心配ねえよ、と笑って煙草をくわえた。
    「泥棒ってのは四六時中嘘吐いて、人を騙して謀ってその懐から大事なものを掻っ攫って行くのが生業だ。だからこそ、助力を請うのに真の信頼を得るためには、自分から腹割って話さなきゃならねえ。通すべき筋を間違えちゃならねえんだ……ジジイから耳にタコが出来そうなくらい言われ続けたことだよ」
    「…………はい」
    「俺にゃお前がいる……大丈夫、きっと見つけてみせるさ。俺ぁ盗めなかったものはねえ、天下の怪盗バレットだ」
     そう低く呟かれる言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているようでもあった。


    * * *


    ――やられた……完全に油断したわ……
     港で被害に遭った客たちの搬送や、検問の指示と現場との連絡、墜落した飛行船の引き上げ算段の交渉、警察への事情説明、李家との諸々対応などを終えて、ミツキが局の手配してくれたホテルへヘトヘトに疲れた身体を引き摺って戻ったのは明け方だった。
     勿論いつの間にやらロキは姿を消していて、閃光の元に向かったのだろうことは察せられたが、せめてもう少し某かの手懸かりを引き出しておくべきだった、と歯噛みしたものの後悔先に立たずだ。
     穏やかで人好きのする笑みと、丁寧な物腰、柔らかな対応についついごまかされてしまいがちであるが、やはりロキはバレット側の人間(と言っていいのか)なのだ。
     優先するのは閃光であるし、彼のためにならないことには断じて手を貸さない。
    ――そう言えば、ダミアンさんもいなくなってた……
     しかし、足取りの掴めぬままこの広大な帝国領で二人を追うのは極めて難しい。本気で姿を消した彼らは気配すら残さないのだ。
     どこをどう探せばいいのだろう? その途方もなさに考えをつらつらと纏めるでもなく思考している内に、いつの間にか微睡み寝落ちてしまっていたらしい。
     けたたましいアラームの音に飛び起きたベッドの上で、ミツキは盛大にくしゃみをしてしまった。そう言えば結局シャワーも浴びていなかったのだ、と気がついて、鳴りっぱなしの携帯端末を手に取る。


    →続く