全方位にライトを向けて、何か植物が生えていないか入念にチェックしながら進んだせいで思ったよりも時間はかかったが、それほど奥まった位置ではないところに不意に開けた空間が広がっていた。
人工的な光源を受けてきらきらと蒼く輝く岩壁――その得も知れないこの世のものとも思えない美しさに、疲れを覚えていたことなど忘れて思わず息を飲む。
「これは……全部〈魔晶石〉か……」
同じ光景を閃光はかつて一度見たことがある。
以前、追われて捨てた古巣である故郷の大神(おおかみ)村へ所用で訪れた際、一番深い山の腹の中がここと同じように一面マナの結晶に覆われていた。青く蒼く碧く藍くどこまでも澄んで、原始の息吹を感じさせる圧倒的なその光景は、どんな名画も芸術も霞んで色褪せて見えるほどの何かを、こちらに叩きつけて来た。気の遠くなるような――人間の想像など及ばないほど、長い年月をかけて蓄積された生命エネルギーの塊だ。
〈魔法術〉の始祖であった〈魔女〉ルナ・クロウリーが第六元素として提言したこの蒼き物質は、彼女がありとあらゆる状態、媒介として安定する術を示したからこそ驚くべき速さで発展した。それより以前からこうして自然に発現することは多々あったのだろうが、マナはほんの僅かな違いで霧散し変化する。
一体どう言うメカニズムで〈魔晶石〉が生まれるかよく解っていなかった当時は、天然で〈魔晶石〉化したこれらを発掘精錬し、生計を立てていたのだろう。ろくな資源などなかったはずの大神村が絶大な自治力を持ち、外から完全に隔絶出来ていたのも同じ理由だ。
国は好き勝手に〈魔晶石〉が精錬されたり、貴重なマナの発露場を失わぬためにその存在を秘匿し、独占するのである。それは国をも揺るがしかねない――〈魔法術〉が生活の殆どを支えていた〈黄金期〉において、国家権力に取って代わろうとするには充分過ぎる代物であるからだ。
それは〈文化改革〉によって大半の〈魔晶石〉が失われ、禁じられてしまった現在も変わらない。たった一つ――たった一欠片この蒼き石があれば、世界は赤ん坊にだって作り替えられる。
故に〈魔女〉は全ての罪悪と汚名を着せられて消し去られた。彼女が世界を作り替えねば、人類はあの〈世界大戦〉のような過ちは犯さなかったのに、と。
「李伯龍はこの存在を……?」
「いや、知らねえだろう。フーリャン翁すら知ってたかどうか……あの地図のことは伝わってなかったみたいだしな」
しかし、国家権力すら凌ぐと言われるほどの権力を誇る四大財閥の長だ。裏社会の面々から何か聞いていないとも限らない。
「ともかくここに残ってる奴が最有力候補だ。ロキ、手分けして探……」
「待ちくたびれたよ、閃光……随分のんびりしてたじゃないか」
背後から聞こえた声に、ゆっくりと振り返る。驚きはしなかった。必ず来ると――例えどんな手段を高じてでも姿を表すと、そう疑いもしないから、対峙する緊張感を持ちこそすれ、焦りもない。
ただ先んじて待ち構えているかと思いきや、どこかにその身を潜ませてこちらの逃げ道を塞ぐ形を取って来たことが、意外と言えば意外だった。力任せに押し通そうとするそれまでのウォルフを思えば、随分とまあ狩りが上手くなったものである。
――成程、風上を取られた……前回と同じ轍は踏まねえってか……
どのみち今は、フェイの作ってくれた弾丸は数えるほどしか残っていない。例のウォルフ対策用の弾丸があろうとなかろうと、残りは李家で手に入れた通常のものしかありはしないのだ。それから予備で借りた慣れぬ44マグナム。
――だが、それが何だって……?
→続く