ふと視界を過った人影に、閃光は即座に反応して木陰に身を寄せた。改めて見遣れば、少し先に妙に開けた場所があり、左手には写真で見たバッティングセンターのような(それにしてはこじんまりとした規模ではあるが)設備が佇んでいる。
    ーーあれは……ジジイか……何してやがる、こんなところで……
     怪訝に思い、しかめっ面で少しずつ距離を詰めながら閃光が見守っていると、不意に遠くで圧縮された空気が何かを吐き出す音と、微かにプロペラが起動する音を鼓膜が捉えた。
     途端、木々の枝葉の向こうから、小さな物体が誠十郎目掛けて飛来する。
     咄嗟に飛び出そうとしたものの、閃光は踏み止まった。誠十郎の手には見たことのない得物がある。スナイパーライフルだ。黒光りする長い銃身を手慣れた様子で構えると、彼は慌てることなく飛んで来る物体に照準を合わせた。その距離はまだ有に数十メートル以上はある。
     ドン……っ!
     下腹に響く銃声。コンマを置かずに、飛来物は空中で見事に撃ち抜かれて木っ端微塵になった。二つ、三つ、タイミングをずらしてさらに三つ。間髪入れぬその作動は、遠目とは言え閃光の動体視力でも全てを把握出来ない早業だ。
     それは今まで少年の知らない美しさを孕んでおり、ほんの一時とは言え、閃光は魅入られあっと言う間に心を鷲掴みにされた。
    ーーマジかよ……あんなデカい得物で……すげぇ……これ、もしかして……
     いつの間にか無意識の内食い入るように身を乗り出して眺めていたせいだろう。耳栓を外した誠十郎は振り向くことなく声を上げた。
    「閃光、そこにいるな?」
    「…………っ、」
     いつも向こうから声をかけられた時以外は、なるべく関わりを持たないように、避けて無視してそっぽを向くのが常である故、こんな風に興味を持ったことを彼自身に気づかれるのは非常に気まずくはあったが、バレているのを素通り出来るほど厚顔にもなれず、がさりと茂みを揺らして閃光は誠十郎の前に這い出た。


    →続く