が、閃光を見遣った誠十郎は最後まで言葉を紡げなかった。
振り向いた先に佇む少年は、その手に銃を握っていたからだ。無論、銃口をこちらに向けている訳ではない。誠十郎に差し出すように、掌の上に乗せているだけだ。
が、それは。
その銃は、誠十郎が現役時代愛用していたコンバット・マグナムだった。
処分せねばと思いつつも後ろ髪を引かれ、もう二度と使うことはあるまいと、封印のような気持ちで金庫の二重底の下に仕舞い込んでいたはずのものだ。弾丸は入っていないものの、手入れさえきちんと施せば、まだすぐにでも使える代物である。
今の閃光では、見つけても破れはしないだろうと高を括っていた。一体いつからその懐に忍ばせていたのか。
『おれにもつかいかたおしえてくれ』
いつも持ち歩いているらしい筆談用のノートに綴られる言葉。相変わらずまだたどたどしい文字ではあったが、それ故に痛いくらい切実な閃光の気持ちを伝えて来る。
てっきり誠十郎は、閃光が銃を恐れるものだとばかり思っていた。普通に暮らしていればおおよそ目にすることはない、まともに生きずとも向けられ況してや撃たれた経験があるのなら、避けて然るべき凶器を、少年は自ら望んで手にしようとしている。
その理由を、誠十郎は解らない訳ではない。
けれど、
「駄目じゃ」
『なんでだよ! たたかうのにぶきはひつようだろ』
「こいつがどんなものかは、誰よりもお前さんがよく解っとるじゃろうが!! これは、人を殺すための道具じゃ!!」
撃たれた痛みを、その銃口を向けられる恐怖を、味わったことがあるからこそ、誠十郎は閃光に銃を手にして欲しくなかった。暴力で捩じ伏せることが、イコール強さだと思って欲しくなかった。
それまでどれほど無茶をしたところで怒った試しのなかった誠十郎の大喝に、閃光も思わず気圧される。自身の苛立ちや怒りをストレートにぶつけて来た実父の修晟(しゅうせい)とはまるで違う厳しさを感じ取って、ビリビリと震える空気が頬を刺す。
「こんなものの扱いが上手くなったところで、人の殺し方が上手くなるだけじゃ。指先一つで相手のこれからを全部奪ってしまう……お前さんには必要ない。戦うなんてことは、必要ない」
「…………」
「それに……女の子にもモテぬよ。口説き文句の一つ、笑顔の一つ、身につけた方が百億倍マシじゃ」
『だったら、何であんたは未だにそいつを手放さねえんだ』
とは訊かれなかった。
納得ーーした訳ではないだろう。けれど、閃光はそれ以上銃については言及しなかった。
勘のよい子だから、もしかしたらこちらの思惑も葛藤も、某か嗅ぎ取ったのかもしれない。言葉に出来ないから、と言うよりは時期ではない、と見て引く際のよさを見せつけられて、ますます誠十郎は類い稀な才能を腐らせたくはない、と惜しむ気持ちを抑えなければならなかった。
* * *
→続く
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