が、その言葉とは裏腹に、閃光は大きく腕を振りかぶり、何かを凪ぎ払うようなモーションを繰り出した。その軌跡をなぞり、紅炎が延長線上の誠十郎へ躍りかかる。辛うじて躱しはしたものの、触れれば火傷どころではすまない灼熱が、びりびりと肌を焼いた。
「ああ……何と言うことだ……もしかして、お前さん……」
目を凝らせば、『見方』を知っている誠十郎の視界には閃光の周囲に収束し、迸り渦を巻く蒼白いパルスの煌めきが、狂ったように弾ける〈マナ〉の動きがはっきりと映る。
今は禁止され、全て闇に葬り去られたはずの〈魔法術〉ーー整然と紡がれるべきその術式が、きちんと体を成していないが故の暴走だ。
何をどうしたいか、その意思がなく、ただただそこに吹き溜まっただけの荒れ狂う力の奔流。閃光はこんな凄まじいものを内に抱えていたのか。
これは誰もが血眼になって手を伸ばし、奪い合うはずだ。
たった一人で戦の流れを変えられるーー勢力すら書き換える、〈魔導人形〉や〈機械化歩兵〉が廃された現在となっては、唯一無二と言っても過言ではない生きた暴力の権化。寧ろ、チンピラ組織ごときの目にしか今まで止まっていなかったのは、最早奇跡だ。
ーーもし、国家の機密機関が動けば、ただではすまんぞ……
「畜生……うるせぇ、黙れこれは俺の身体だ!! 勝手にすんな、静かにしろ!!」
内なる獣に向けてか、苛立ちに満ちた怒声を上げる少年の双眸は、炎の照り返しを受けてますます紅く輝いていた。
自分でも完全に抑制(コントロール)出来ないのだ。
焦れば焦るほど、抑えようとすればするほど、反発して炎は猛り大きくなる。
ーーさて、これが効くかどうかは解らんが……
誠十郎は懐から小さな鉄輪を取り出すと、うずくまる閃光に歩み寄り、その傍らにひざまずいた。無論その体躯に、炎は嬉々として襲いかかる。
「来るなっつっただろうが!!」
「大丈夫じゃよ、閃光。何も恐れることはない」
閃光の纏う炎に焼かれながら、焦がされながら、誠十郎はまだ少年の面影を残す華奢なその手を取った。この子はこんな成りで、向けられる憎悪に耐え、飲まれる恐怖と戦いながら生きて来たのか。
咄嗟に振り払おうとする手をぎゅっと握り締めると、閃光は驚いたように僅かに目を見張った。その手首に細いリングをかしゃん、と嵌める。
「…………っ!?」
途端、それまで猛々しくその威を振るっていたマナがぴたりと動きを止め、でたらめだった旋律が整えられ、意味を成すものとして描き出される。
暴れる炎はゆっくりとその勢いを潜めて行き、やがて名残も残さず霧散した。
「…………何、しやがった?」
→続く
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