誠十郎の元を飛び出しはしたものの、閃光に行き先の宛てなどあるはずもなかった。
逃げるように故郷の大神(おおかみ)村を後にした時と丸っきり同じだ。いやあの時はまだ、焼け崩れた跡地から必要最低限の使えそうなものは掘り起こした一式の荷物があった。今は着の身着のままで何一つ持ってはいない。より状況は悪いだろう。
とにかく人目につく訳にはいかなかった。
今さら警察やら何やらが追って来たりなどはしないだろうが、彷徨いている未成年者は、目につき次第声をかけられるのは経験済みだ。その後、無戸籍の子供がどう言う扱いを受けるのかも。
おまけに、誠十郎は贔屓にしている世界屈指の情報屋がいる。街中に張り巡らされた防犯カメラに映り込めば、すかさずそこから足取りを辿られるだろう。バレずに行くためには、それこそ地下深くでなければならない。
ーーって、何で探されることを前提にしてる……馬鹿か、俺は……
思わず舌打ちをこぼす。
異能を見た人間が、今だかつて閃光を怖れなかった試しがあったか。
その人離れした身体能力を、人外へ変貌する様子を、何も持たないのに炎を生む術を、目にする度に知る度に怯えた眼差しを向けられ、悲鳴を上げて遠巻きにされ、糾弾されて追い立てられるのが常だった。
そうでなければどうにか利用して、甘い蜜を吸おうとする輩が手ぐすね引いて、舌舐めずりをしながら近寄って来るかのどちらかだ。
これだけ危険な異形を、何のメリットもなしに手元に置く物好きなどいない。
否、例え誠十郎は応と言おうとも、閃光自身が傍にいられないのだ。彼まで壊してしまったら、きっともう元には戻れない。歯止めが利かない。そう予感した。
『閃光は、閃光のままでいいんだよ』
まほろの言葉に反して、どうにかごまかしヒトの中に溶け込もうとしたこともあった。自分を偽り真似をして、望まれる虚像を演じようともしてみた。けれど、閃光の根底には『普通のヒトの生き方暮らし方』のデータがない。
いつも破綻し露呈して、己がどれだけ異質であるかを理解するだけだった。
ーーいっそもう、無人島にでも行けばいいんかよ……
自嘲気味に独りごちながら夜の道を歩く。
暗闇は好きだ。己の醜い姿を隠してくれるから、ひどく安心する。思えば生まれついてこの方、この数ヶ月ほど明るい陽の下でのびのびと過ごしたことはなかったに違いない。それでも居心地が悪いと言うよりは決まりが悪くて、何をせずとも咎められているような後ろめたさが途絶えることはなかった。
ここはお前のいていい場所ではないのだと、他の誰でもない自分自身がそう責める。
ーー何で……俺は普通じゃなかった……
何度も、何度も、繰り返した答えの出ない問い。
きっと意味があるよ、と言われた言葉を信じて、探し続けて。
けれど今まで模索した中に、これだと思える理由はなかった。ヒトとして生きていい、理由はなかった。化物だと諦める方が余程簡単で、害をなすものだと認める方が余程楽だった。
それでも、彼らと同じ世界で生きたいと願うことは罪なのか。
それでも、彼らと共にいたいと望むことは叶えてはならない想いなのか。
その時、不意に少し離れた場所で響いた銃声に、閃光はぴくりと足を止めた。消音器(サイレンサー)が着いていても、人外の聴力を誇る閃光はその周囲のざわめきを拾う。数人の緊張した呼吸や微かな足音が気配となって聞こえるのだ。誠十郎の持つ得物ではない。
誰か余所者がーーしかも武器を持った者が近くに来ている。
「…………」
一瞬、躊躇したものの閃光はそちらに向かって歩き出した。
→続く
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