翌日から、誠十郎は本格的に閃光を『教育』し始めた。今まで少年が興味の向くまま手を伸ばすに任せていたのを、ブラッシュアップし補完するように、教え、問題を与え、正解を指し示す。
     そうして誰かと向き合ってやり取りすることが殆どなかったせいか、閃光は面白いほど従順に伸びた。器用で記憶力もよく、学ぶことが余程楽しいのか、飽きることなく納得するまで追求し、知識を技術を吸収した。
     様々な国の言語、歴史、地理、文化から生物、科学、高等数学、格闘技や運転技術、心理学からはたまた贋作の製作技術まで、己が何十年とかけて修得して来たありとあらゆるものを、残らず譲り渡そうとしてでもいるかのように、その成長の手助けに心血を注いだ。
     こと、射撃技術は誠十郎も舌を巻くほどで、持ち前の反射神経やセンスは、まさしく彼のために得物があると言っても過言ではなかった。
     〈魔法術〉についても基礎的な知識や背景、〈マナ〉の見方や術式の読み方など、使わずとも『いざと言う時』に閃光がどうにか対応出来るように、知っている限りの知識を与えた。そのおかげでか、幸い閃光はあれから暴走を起こしていない。
     普通に学校に通っていたのでは、おおよそ学ぶことは出来なかっただろうそれらは誠十郎の睨んだ通り、閃光の中に眠っていた才能を余すところなく開花させた。徹底的に叩かれ、磨き上げられた数多の能力と技術は、第一線で世界を相手に戦うのにどれも申し分ないものであった。
     誠十郎は一個の完成された天才を作ることに貪欲であったが、閃光は己の知らないことを学ぶことに貪欲であった。まるで飢えを満たすような二つの歯車が、これ以上ないほど上手く噛み合い、爆発的なエネルギーを生んだのである。
     ただそれをどう使うかは、少年の判断に任せることにした。今まで自分からどうしたいか、どうなりたいか、閃光が望んだことはなかったからである。
     その答えを、自ら正解だと思えるものを見つけることこそ、閃光がヒトとして生きるのに必要なものだ、と誠十郎は考えたのだ。
     ただそれは簡単に手にすることは出来ない。
     誠十郎について学ぶ中で、閃光は徐々に表の社会にも触れていき、その見識を広めた。『普通』の『日常』の些細さを、当たり前の儚さを。ヒトとして生きるためには、何が必要であるかを。
     勿論、二人以外の人間と接するのは相変わらず苦手なようであったが、それでもぎこちなかった始めに比べれば、近頃は随分とスマートに対応出来るようになったものである。あちこち共に連れ立って出かけて行く様子は、まるで本当の親子のようであった。
     血など繋がっていなくとも、そんな関係を築けるのだと言う証明のような毎日であった。
     月日が経つのは本当にあっと言う間だった。一年が経ち、二年が過ぎ、三年を迎えた。標準より小柄で華奢だった閃光の身体は、この間にぐんと成長し、歳も本人が正しく覚えているのならば、海外ではもう成人として扱われる歳になった。
     誠十郎と並んでも見劣りしない体格だった。
    「閃光、今日が何の日か知っておるか?」


    →続く